池袋シネマ振興会公式ホームページ

  撮影/田中栄治 取材・文/北條一浩
ヘアメイク/松本あきお


 「出てくるお客さんの顔を、こっそり見てみたいんです。のぞき穴みたいな所、ないですか?」
 大沢たかおは急に、そんなことを言い出した。2月9日月曜日、夜8時半。テアトルダイヤでは、主演作『解夏』の最終回を上映中。お客さんが家路についたあと、まさにその同じ場所で、大沢たかおのインタビューと撮影は行われる。上気した、少し紅い顔で階段を登っていった中年の女性も、さめざめと泣いた後に、バツが悪そうにしながらギリギリまで席に粘って化粧を直していた女子高生2人組も、このあと、ここで大沢たかおの取材があることを知らない。取材の段取りの関係で、「のぞき」は実現しなかったけれど、最終回のお客さんたちが帰っていくその時、ほんの目と鼻の距離で、大沢たかおは、撮影のための準備をしていた。観客と俳優。触れ合わないけど、触れ合う関係。やはり、映画館とは不思議な場所だ。大沢たかおもまた、映画館という場所に行くことが、とりわけ好きだという。インタビューはどうしても、まず、映画館のことから始めたかった。
 「映画館でインタビュー受けるの、初めてですよね? 先にやった人、いないですよね?」
(2秒ほど考えて)「ああ、ないですね。確かに初めてです。僕も東京出身なんで、昔からあちこち行ってます。マリオンができる前の銀座、新宿のコマのあたり。もちろん、池袋も。映画館に行くという行為自体が好きです」
 海外、たとえばアメリカなどに行くと、毎日、映画館に入り浸るのだという。
「7日滞在したら、キッチリ7回。で、つくづく思うんだけど、ほんとに皆、俳優の新作を待ち焦がれてるんですよ。『トロイ』の予告が始まると、ブラピのファンが大騒ぎ。ジュリア・ロバーツやジョニー・デップのファンは、なんていうのかな、“信じてる”という感じ。ショーン・ペンのファンはもっとずっと静かに信じて待っている。そんな環境に身を置いて、日本に帰ってきた時に、思ったんです。“大沢たかおの新作を待っている人が、どこかにいるのか?”って。“そんな人、日本じゅう探したっていないよ”って。本気でそう感じました」
 『花』『荒神』『解夏』『スカイハイ』と、ここ1〜2年、大沢たかおは日本映画界に不可欠の存在になっている。この春にはさらに、『花とアリス』『世界の中心で、愛をさけぶ』と続く。筆者も、気がつくと『リリイ・シュシュのすべて』以降の彼の出演作をほとんど観ている。そして、その出演作を(結果的に)観続けていくなかで、微妙なひっかかり、のようなものが自分の気持ちの中に生まれてきた。
 おもいきり単純化して言えばそれは、「大沢たかおは、いつも“受け入れる”人である」とでも言うほかない奇妙な確信だ。『花』では動脈瘤と記憶喪失の可能性に怯え、『解夏』はベーチェット病と失明、ともに病を受け入れつつ、周囲の人間との関係性が変化してゆくという共通項を2つの作品は持っている。異色のアクション時代劇『荒神』では、ひたすらアクションの送り手となるもう一人の主役・「荒神」(加藤雅也)に対して終止、受身に回り、最後には、その非現実めいた「世界」に、「侍」(大沢たかお)が、とりあえずは君臨してしまうという構造になっている。
 そしてこの、“受け入れる”ことの究極が、新作『世界の中心で、愛をさけぶ』ではないだろうか。この作品では、カセットテープによる声の交換、という、原作にはない設定が巧みに導入されているが、その「声」は、作品中で終始、「残された男」朔太郎を縛り続ける。この作品での大沢たかおの「演技」の大半は、ヘッドホンでその「声」に耳を傾けながら、ただひたすらに彷徨するという、無為といえばこれ以上ないくらいの無為、究極の“受身”のために費やされる。そして彼は、この映画を、「アンサームーヴィーだ」と言う。
 「行定監督の素敵な所は、あのヘッドホンのシーン、ヘッドホンからは何も流れてないんだけれども、現場では、監督が音声さんに完璧に指示して、彼女の声、アキの声が完全に演技と同じタイミングで流れてるんです。僕はその声を本気で聴いて、耳を澄ませて芝居をしていただけ。僕はね、あの作品は、アンサームーヴィーだと思うんです。原作から受けたものに対する僕たちの世代の、脚本家の、行定さんのアンサームーヴィー。原作の世界をなるべく壊さず、温かい、大人の中で包んであげるという感じ」。 
 アンサームーヴィー。確かに、彼はそう言った。インタビューテープを聴きなおしながら、うれしくなる。なにしろ、自分に投げかけられたものを、確かに“受け入れた”人からしか、アンサーは生まれないから。
home
池袋シネマ振興会について
池袋映画館マップ
上映スケジュール
”いいことありそう”を集めてみました
イベント情報
プレゼント
フリーペーパー「buku」について
お問い合わせ

毎月29日は、「bukuの日割引」として、池袋のすべての映画館で、映画が1000円均一でご覧いただけることになりました。皆さん、29日は、忘れずにbukuを持って、池袋の劇場へ!
buku8号
autumn2005
more
Sunshine City


シネトレ



池袋専科