―― 映画が始まってすぐ、まず、京極堂のあの作りにグッと引き込まれました。
京極夏彦さんの原作では、自宅の一部を改造して古本屋を開いているという設定でしたから、物語の時代である昭和27年ごろの洋風の造りにしようかと思い、絵を描き始めたんです。ところがどうにも陳腐でね。そこで我々にしてみればおなじみの「蔵」ですね。「よし、蔵にしちまおう」と決めて、そこですべてが動き出しました。
―― そして本ですね。和綴じの本が所狭しと見事に配置されていて、しかもちょうど座った位置から本を置いたようになっていたりと、あそこが店であると同時に住まいでもあるという点が、実によく伝わってきます。
そういうリアリティをちゃんと作れるかどうかは大事ですね。本の積み方、並べ方は、神保町の大屋書房さんに教えてもらいました。本の表紙に標題(タイトル)を大書するやり方、あれもそもそも大屋書房さんがお始めになったそうですよ。我々としてみれば、もちろん実際の本の中身は違うわけだから、あの紙を貼っておくことで、どの本がどの本だかわからなくなるということを防ぐことができて、実際的にも助かりました(笑)。それとこの作品では、美術部の中に特別に「文書課」を作りました。「美術装飾」というネーミングにしたと思います。とにかく、文字を大量に扱うので、それを専門にやるスタッフが必要でした。
―― 久遠寺医院には、あらかじめモデルやイメージはあったのですか?
実相寺監督が、山形にある済生会病院を念頭に置かれていたので、山形まで見に行きました。典型的な明治の洋館、木造建築です。旧館と新館が出てきますが、新館のほうが石づくりの大正建築です。本当は、明治・大正・昭和と、典型的な日本の近代建築の流れを久遠寺医院だけでやりたかったんですが、そこまでは行かなかった。それともう一つ断念したのが回廊です。新館と旧館をつなぐ回廊があって、京極さんの原作では「まるで教会の中を歩くよう」という一行がある。これはぜひやりたかったんですが、予算の都合もあり、あきらめました。
―― 回廊ですか。そのスケール感はぜひ、拝見してみたかったですね。それと久遠寺医院でもう一つ、あのダチュラを栽培しているのが温室という設定になっていますね。これは、原作とは違うアイデアです。
これも監督と話して、どうも室内ではやりにくいと。そこで、室内と野外の中間的な場所ということで温室というアイデアを思いつきました。
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