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1940年東京生まれ。「ウルトラマン」シリーズ黎明期からの特殊撮影美術で知られ、映画では『星空のマリオネット』『陽炎座』『さらば箱舟』『夢二』『写楽』など、手がけた数は30本以上にのぼる。画集として『怪獣幻図鑑』などの著作も。実相寺昭雄監督とのコンビは、およそ35年に及ぶ。
撮影/望月 研 インタビュー/小窪 佳(テアトル池袋)+北條一浩(編集部)
資料提供/(株)コダイ 協力/ファントム・フィルム
 この夏、話題の大作『姑獲鳥の夏』が、いよいよ7月16日(土)から公開されます。映画の舞台は、雑司ヶ谷界隈や鬼子母神など、そう、まさに豊島区のご当地映画と言っても過言ではないこの作品、地元・池袋では、”日本全国で最も鬼子母神に近い映画館“テアトル池袋での上映となります。
  今回bukuは、豪華・緻密・繊細なこの作品の「美術」に注目。実相寺昭雄監督とは35年来のパートナーである池谷仙克さんにお話をうかがってきました。

―― 映画が始まってすぐ、まず、京極堂のあの作りにグッと引き込まれました。


 京極夏彦さんの原作では、自宅の一部を改造して古本屋を開いているという設定でしたから、物語の時代である昭和27年ごろの洋風の造りにしようかと思い、絵を描き始めたんです。ところがどうにも陳腐でね。そこで我々にしてみればおなじみの「蔵」ですね。「よし、蔵にしちまおう」と決めて、そこですべてが動き出しました。
―― そして本ですね。和綴じの本が所狭しと見事に配置されていて、しかもちょうど座った位置から本を置いたようになっていたりと、あそこが店であると同時に住まいでもあるという点が、実によく伝わってきます。
  そういうリアリティをちゃんと作れるかどうかは大事ですね。本の積み方、並べ方は、神保町の大屋書房さんに教えてもらいました。本の表紙に標題(タイトル)を大書するやり方、あれもそもそも大屋書房さんがお始めになったそうですよ。我々としてみれば、もちろん実際の本の中身は違うわけだから、あの紙を貼っておくことで、どの本がどの本だかわからなくなるということを防ぐことができて、実際的にも助かりました(笑)。それとこの作品では、美術部の中に特別に「文書課」を作りました。「美術装飾」というネーミングにしたと思います。とにかく、文字を大量に扱うので、それを専門にやるスタッフが必要でした。
―― 久遠寺医院には、あらかじめモデルやイメージはあったのですか?
  実相寺監督が、山形にある済生会病院を念頭に置かれていたので、山形まで見に行きました。典型的な明治の洋館、木造建築です。旧館と新館が出てきますが、新館のほうが石づくりの大正建築です。本当は、明治・大正・昭和と、典型的な日本の近代建築の流れを久遠寺医院だけでやりたかったんですが、そこまでは行かなかった。それともう一つ断念したのが回廊です。新館と旧館をつなぐ回廊があって、京極さんの原作では「まるで教会の中を歩くよう」という一行がある。これはぜひやりたかったんですが、予算の都合もあり、あきらめました。
―― 回廊ですか。そのスケール感はぜひ、拝見してみたかったですね。それと久遠寺医院でもう一つ、あのダチュラを栽培しているのが温室という設定になっていますね。これは、原作とは違うアイデアです。
  これも監督と話して、どうも室内ではやりにくいと。そこで、室内と野外の中間的な場所ということで温室というアイデアを思いつきました。

 

―― あのダチュラは本物を用意されたのですか? それと、温室の実際の広さは?
  ダチュラは本物も調達しましたが、イミテーションと混ぜています。カメラが寄っているほうがイミテーションです。あの花は長持ちしないので、維持するのが大変なんですね。温室の広さは、そう、十畳間くらいでしょうか。もちろん、撮影によってもっと広く見せてますが(笑)。
―― さて、そして眩暈坂です。あれを完全にセットで作られたことがもちろんすごいですし、見ていて三半規管がイカれてしまうような気がしました(笑)。
  ああ、そう感じていただけたのなら、作り手としてはうれしいですね(笑)。眩暈坂は、私の中では初めからセットというアタマがありましたが、プランとしては当初、実際どこかの坂でロケする予定だったんです。いくつか、ロケハンもしました。ところが、実際の坂だとやはり妙なリアリティがあり、監督が考えておられた「眩暈坂のシーンは舞台っぽくしたい」という意向と反する。で、「じゃ、作っちまおうか」と。
―― 池谷さんとすれば、「してやったり」ですね(笑)。
  そう(笑)。ただ、着手してからは難航しました。眩暈坂のシーンは、照明によってシーンをコントロールしたいという意向が監督にあり、そうすると面積だけじゃなく、かなりの高さが必要なんです。いろいろスタジオを探したんですがどこも高さが足りなくて、次に倉庫をあたったんですが、今度は予算が膨大にかかる。そこで、結局オープンで作ったんです。結果的にオープンで良かったと思うのは、途中、台風が来たりして、地面が流されたり、固まったり、また流されたりを繰り返して、だんだんいい味になってきたんですね。作ってしばらく風雨にさらすことで、いいエイジングになった。
―― エイジングですか。人工物と、天然自然のコラボレーションですね。
  ほんと、そうですね。僕は、この作品については、もちろんパーフェクトな仕事ができたとは思わないけど、少なくとも京極堂と眩暈坂、あの2つを、いろいろな困難を承知で強行して作った、で、それが結果的にうまく行ったということに関しては、自分を誉めてやりたいと思ってます。
―― 実相寺監督とのパートナーシップが、もう三十年以上、続いています。
  もちろん、個々の作品によってアプローチが違いますが、基本的には監督のスタイルは同じです。最初に大まかな指示を与え、それに対してこちらが答えを自分で作っていく。監督は作ってきたものに対し、間違っていなければ尊重するし、「違う」と思えば率直に言ってくれる。「違う」場合に、わざわざ打ち合わせをするんじゃなくて、飯を食いながらとか、お茶を飲みながらとか、そういう時にポッと出る監督のなにげない一言で、「あ、こうすればいいんだな」というのがわかったりします。このあたりは、まあ、付き合いの長さが功を奏しているかもしれませんね(笑)。
―― 実相寺監督は、あまりテイクを重ねるようなことはされない、とお聞きしたことがあります。
  一概には言えないですよ。監督と出会った頃、鳴ってる電話にトラックアップする、というシーンの撮影がありましたが、「始まったな」と思ったところで退席して、しばらく経って戻ってきたら、まだやってる。見たら「トラック37」なんて書いてありました(笑)。よほどキーになるシーンだという判断だったのでしょうね。ただ、役者さんに関しては、あまりいじくりまわしてもダメで、結局、最初の演技がいちばん良かったりするんで、そのあたりは経験的にわかっておられるのだと思います。だから逆に言うと、俳優さんの側のプレッシャーは相当なものだと思います。
―― さて最後に、完成した作品をご覧になって、率直な今の気持ちをお聞かせください。
  まだ客観的には観られないです。ただ、京極堂と眩暈坂はうまく行ったと思うし、全体としても、そこそこできたと思います。もちろん、「回廊、やりたかったな…」と、今でも未練はありますが(笑)。ただ、美術の人間として一つくらい断念があって、時には下を向くことがあっていいかなと。思うに、演出家――実相寺監督のことですが――の仕事って、朝、現場に来て、その日一日でいくつのことをあきらめて帰っていくか、そういうことかな、と僕は推測しているんです。あくまで勝手な推測ですよ。だから、美術の人間も、少しはあきらめないとね(笑)。とにかくこの映画を、京極ファンの方も、そうでない方も、一人でも多くの皆さんにご覧いただけたらと思います。いい意味で、皆さんのイメージを、少しばかり裏切っているようなことになったら面白い、と思っています。
―― 本日は、どうもありがとうございました。


姑獲鳥の夏
監督/実相寺昭雄 
原作/『姑獲鳥の夏』(京極夏彦著/講談社刊)
脚本/猪爪慎一 
照明/牛場賢二 
美術/池谷仙克
出演/堤真一、永瀬正敏、阿部寛、宮迫博之、原田知世、田中麗奈、すまけい、いしだあゆみほか 
配給/日本ヘラルド映画 上映時間/123分
公式HP:www.ubume.net
 
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